2022年9月6日火曜日

原材料の最多出場選手『ミール』を知ろう

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ペットフードを買う時には原材料一覧をよく見て 選びましょうとよく言われます。けれど原材料一覧を見ていくと「???」ということばかり。
誰もが一度は「読めば読むほどわからん!」と言う経験を持っているのではないでしょうか。

私が16年にわたって愛犬のことを綴ってきたブログSMILES@LAには、フードの原材料についても色々と書いて来ました。おかげさまでフードのことを読みに来てくださる方も増えたので、原材料についての説明を1箇所にまとめようと思い立ったのがこのブログです。

まずはペットフード原材料一覧の最多出場選手とも言える『ミール』をご紹介します。今回は肉類のミールで、魚のミールはまた別に書きます。

原材料一覧の1番か2番に書かれているチキンミールとかラムミールというアレです。「チキンと書いてある次にチキンミールって書いてあるの何?違うものなの?」って混乱しますよね。(私はしました)


Meat and bone meal

原材料の表記でチキン、ラム、牛肉といった肉の名前で書かれているものは、私たちが知っている肉です。原材料の時点では生です。
一方、ミールというのは原材料の時点ですでに加熱加工されているものです。

↑上の画像、ミールの見た目はこんな感じです。
正式にはMeat meal、骨が含まれる場合にはMeat and bone mealと言います。mealというのは「挽いたり潰したりして細かくした食べ物」という意味があります。オートミールはオート麦のミールです。日本語の肉粉や肉骨粉はこの正式名称の直訳です。でもここでは単に『ミール』と書いていきますね。


ミールの製法

ミール製造の最初の工程はレンダリングと呼ばれるものです。
ミールの材料になるもの(詳しくは後述)を巨大な釜に入れて加熱し、油分を溶かして搾る工程がレンダリングです。
ここで採れた油は、飼料の「チキンファット」「アニマルファット」という脂肪原料になります。

油分の抜けた原材料は、高温で乾燥させて細かく挽いて粉末になります。原材料から油分と水分が抜けているので、ミールはタンパク質がギュッと凝縮されていると言えます。
なお詳しくは後の項目で説明しますが、レンダリングのプロセスでの加熱と、乾燥させるための加熱という2段階の加熱加工は覚えておきたいポイントです。


ミールの原料(国別)

原材料一覧で見ると「チキンミール」「ラムミール」と同じように見えても、実はその内容は国によって違います。

アメリカ

アメリカ食品医薬品局(FDA)が定めた定義に沿って、米国飼料検査官協会(AAFCO)が詳細なガイドラインを発表しています。
AAFCOのガイドラインが示すミールの定義は以下のようなものです。

ラム、ビーフなど家畜肉のミール
レンダリングした後、細かく挽き乾燥させた哺乳類の組織。
血液、毛、ひづめ、角、皮、胃腸とその内容物は含まない。

チキン、ターキーなど家禽のミール
レンダリングした後、細かく挽き乾燥させた家禽の肉、皮、骨。
羽、頭、足、内臓は含まない。

ミールに含まれない内臓肉などは「バイプロダクト」や「副産物」という名の原材料になります。

副産物の定義は
屠畜された哺乳類由来のレンダリングされていない部位。
 肺、脾臓、腎臓、脳、血液、骨、脂肪組織および胃、内容物を含まない腸が含まれる」
鶏など家禽の場合は「屠畜された家禽由来のレンダリングされていない頭部、足、内臓、首」で羽根は含まれません。 
副産物をレンダリングして乾燥加工したものは副産物ミールと呼ばれます。

ここで大きなポイントは、ミールの定義には「屠畜された哺乳類由来」という言葉がないことです。
この言葉がないことはメーカーが「屠畜で死んだのではない哺乳類」を使うことの抜け穴になっています。
つまり事故や病気で死んだ動物の肉(4D)をミールの原料にすることができるということ。(本当は違法なのにFDAも指摘していない)

全てのミールに4Dミートが使われているわけではありません。しかしフードのメーカーはミールを製造している業者から仕入れて、それをフードの原材料にしており、消費者にはミールの中身はわかりません。
だからこそアメリカ産のミールが使用されているフードはメーカーの選択が特に重要です。

※参照


カナダのペットフードはカナダ食品検査庁(CFIA)が規制しており、カナダペットフード協会(PFAC)の会員はAAFCOのガイドラインに従っています。


欧州連合加盟国

ヨーロッパの国々で欧州連合(EU)に加盟している国はペットフードに関するルールも統一されています。EUでアメリカのAAFCOに相当するのは欧州ペットフード工業連合会(FEDIAF)です。
FEDIAFの規定によると「ミールとは、加熱乾燥して水分と油分を取り除いた肉および動物の派生物」とされています。動物の派生物とは骨や内臓類(心臓、肺、胃、腸、腎臓、肝臓)です。
つまりEUの基準で言うミールには、AAFCOで言うところの副産物も含まれます。
またメーカーによってはミールと書かずにバイプロダクト(副産物)と書く場合もあります。

内臓肉は各種ビタミンやミネラルの貴重な供給源ですから、きちんと管理された副産物は決して粗悪なだけの原材料ではありません。

また「屠畜の時点で人間の消費に適していると獣医師によって査定されていること」がペットフードの原材料としての適格要件に定められています。
事故や病気で死んだ動物の肉を使うことは禁止と明記されています。

※参照


イギリスはEUから離脱したため、イギリスのペットフードはペットフード製造者連合会(PFMA)がルールを定めていますが、その内容はFEDIAFと同じです。

※参照


日本

日本でメーカーや輸入業者がペットフード安全法を遵守しているかどうかを管理しているのは国から業務を委託された独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)です。
ペットフード用のミールに該当するものは日本では肉骨粉と肉粉です。
肉骨粉の原材料として認められているのは豚・家禽・イノシシのみです。牛や羊などの反芻動物では骨がBSEの危険部位であるためです。
肉骨粉には肉と骨だけでなく、臓器、ヒヅメ、羽、血液などほとんど全てが含まれています。
肉骨粉や肉粉の原料は屠畜場、食肉加工場、精肉店から回収したもののみと規定されています。

肉粉の場合は、人間の食用油(牛脂など)を取った後の肉と獣脂カス(牛脂などを搾った後の残り)が原料です。
骨は含まれず、内臓は含まれる場合もあります。

日本の場合はペットフードのラベル表記に統一した規定がないため、肉骨粉や肉粉を使っていても「肉類」「肉など」と書いているメーカーもあるし、乾燥肉と表記されている場合もあって、残念ながらラベルでは不明なことが多いのです。


※参照



ミールの栄養

製法の項目で書いたように、ミールは水分と油分がほとんど取り除かれているため、重量当たりのタンパク質含有量が高くなっています。

アメリカのオハイオ州立大学のオッカーマンの著書Encyclopedia of Meat Sciences 「食肉科学事典」によると、ミールの粗タンパク質は約50〜60%と一般的なドライフードの約2倍の高さです。生の肉類の場合75%前後が水分でタンパク質はその残りの部分です。ペットフードの原材料として100kgの鶏肉と80kgのチキンミールを使った場合、鶏肉のタンパク質は約25kg、チキンミールのタンパク質は約40kgで、メインのタンパク質源はチキンミールということになります。

しかしミールのタンパク質のクオリティは製品によって非常にまちまちです。ミールの原料は上に挙げましたが、これらは簡単に言えば正肉を取った残りの部分です。たっぷりと肉のついた部分が使われているのか、骨や脂肪がほとんどなのかで品質に差が出るのは簡単に想像がつきます。

原料の骨の割合が高い場合にはカルシウムとリンのバランスが適正になっていないことが考えられます。ペットフードにミネラルやビタミンの添加が必須なのはこのような「バランスを適正に保つ」という意味が大きいのです。

しかしミールの原材料が良質なものであっても、高温で加熱調理するという製造方法は栄養上大きな影響があります。肉や骨からミールに加工する際に2度の加熱が行われているのは先に書いた通りです。ペットフードは他の原材料と練り合わせて最後にまた焼き上げる工程があります。この加熱調理の際にタンパク質を構成しているアミノ酸の一部が分解されたり変性します。

肉類から摂れるアミノ酸は20種類あり、それぞれ単独での働きもありますが、他のアミノ酸といっしょになって体内で別の種類のアミノ酸様物質やビタミン様物質を合成するという重要な役目もあります。アミノ酸が分解されたり変性していると、体内でのさまざまな働きに支障が出る場合があります。

ペットフードの原材料一覧の最後の方に、メチオニンやリシンといった各種アミノ酸の名前が並んでいたり、アミノ酸様物質のタウリンが添加されているのは、上記のような理由でアミノ酸が体内で十分に働けないことを考慮してのことです。



ミールは悪者?


肉類のミールのことをあれこれと書いてきましたが、それではミールを使ったフードは良くないのでしょうか?フードのメーカーや販売業者の中には、ミールは危険な原材料でミールを使ったフードは避けましょうと力説しているところも見かけます。

しかしミールの不完全な部分は、アミノ酸の添加やその他の原材料で補われていることは原材料一覧を見れば読み取れます。
人間の食用には適さないけれど栄養価のある部分を加工して利用することは、食資源を有効に使うという点でも大切なことです。

またミールを使うことでペットフードの価格を抑えることもできます。愛犬や愛猫にできるかぎり良いフードを食べさせたいと思っていても誰もが1kg3000円以上するフードを気軽に買えるわけではありません。

ミールを加えることでペットフードが手頃な価格になり、助かる飼い主さんや動物がたくさんいるのですから、ミールや副産物を使ったフードを粗悪品と責め立てることには私は賛成できません。
(でも中には「これはダメだ!」というのも確かにあるので、それはそれでまた別の機会に)

ペットフードの原材料一覧を見て、それぞれの原料や添加物の意味がわかれば安心や納得につながります。このブログがその助けになれば嬉しいです。

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