2022年9月10日土曜日

原材料一覧のアンカー役、ビタミン&ミネラル1

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ペットフードの原材料一覧を見ると、最後の方にズラーッとカタカナや四文字熟語みたいな名前が並んでいますよね。あの難解な文字列の大部分はビタミンやミネラル類です。

ビタミンCとかカルシウムと馴染みのある書き方ならわかりやすいのですが、硫酸〇〇とかピリドキシンとか書いてあると「どんな化学薬品が使われているのか!?」とビビってしまうかもしれません。

実際に「合成のビタミンを添加しているペットフードは体に悪い!」という主張もちらほら見かけます。でも本当にそうなのでしょうか?

人間何事も知らないことには疑心暗鬼になって恐怖を感じたりするものです。正体がわかれば安心できるし、心配を煽るような文章に惑わされることも減らせます。
というわけで、今回はペットフードに添加されているビタミンとミネラルについて。(あえて「添加」という言葉を使いましたが、フードのビタミンやミネラルは合成であろうと天然由来あろうと食品添加物に分類されます。)


なぜフードにビタミン・ミネラルが必要なのか?

そもそもペットフードにビタミンやミネラルが添加されているのはどうしてでしょうか?
それはビタミンもミネラルも生命を維持するために必要だから、です。

タンパク質、脂肪、糖質(犬や猫にはそれほど必要ではないですが)の三大栄養素だけでは、細胞の組織を正常に保つこともできないし、内臓を含めた全身を動かす筋肉も神経伝達物質もうまく働きません。ビタミンやミネラルが足りなくなると本当に命に関わるのです。

食物に含まれている天然のビタミンやミネラルは調理加工、保存流通などの過程で壊れてしまうものも数多くあります。安定した形で摂取するためにはビタミンやミネラルのサプリメントが必要です。それは合成の場合もあれば天然由来の場合もあります。難解なカタカナの名前だから合成というわけでもありませんし、合成のビタミンは体に悪いというわけでもありません。

人間の場合、特定の合成のビタミン類を1日の必要量の何十倍何百倍という大量摂取をすれば何らかの悪影響があることは報告されています。
ビタミンやミネラルは正しいバランスで摂取されている時にお互いに栄養素の吸収を補完し合うことができますが、バランスが崩れると吸収の邪魔をし合ったり本来の働きを発揮することができません。長期に及ぶと健康を害することもあります。

ペットフードに添加されるビタミンとミネラルはあらかじめ正しい比率でバランス良く混合されたものがフードメーカーに納品されるので、そのような心配はありません。(事故でもない限りね)
そうなんですよ、ビタミンやミネラルは『ドッグフード用混合ビタミン』や『キャットフード用ミネラルミックス』というような製品がちゃんとあるんです。

ビタミンA

ビタミンAはレチノール、レチナール、レチナイン酸などレチノイド類の総称です。ペットフードに添加される場合、ビタミンAサプリメントやレチノールと表記されます。
ビタミンAは脂溶性で、食物から摂取すると必要時に備えて肝臓に貯蔵されます。だからレバーを食べるとビタミンAが摂取できるんですね。ペットフードの原材料でビタミンAの摂取源になるのはレバーと卵です。

「ビタミンAと言えばニンジンでは?」と思われたかも知れません。実はニンジンやカボチャなどに含まれるのはプロビタミンAと呼ばれる「体内でビタミンAに変換される物質」です。プロビタミンAの代表的なものはβカロチンです。
ペットフードではβカロチンが添加されているものもありますが、βカロチンは加熱しても壊れないためニンジンやカボチャが原材料として使われていれば、それがベータカロチンの摂取源となります。
ニンジンなど食物から摂取したβカロチンは、体内で必要な分だけビタミンAに変換されます。先に書いたようにビタミンAは肝臓に貯蔵されるのですが、摂取量が多すぎるとどんどん蓄積されて健康に害を及ぼすことがあります。しかしβカロチンは必要量だけをビタミンAに変換し、残りは抗酸化物質として働くので過剰摂取の心配がありません。
犬も猫も人間に比べるとビタミンAの摂取量について寛容性が高い(過剰になりにくい)のですが、体は小さいですから気をつける必要があります。
なお猫はβカロチンを体内でビタミンAに変換することはできません。

ビタミンAは網膜色素の構成成分でもあり、暗いところでの視力を正常に保つために重要です。また亜鉛やアミノ酸との相乗効果で皮膚のターンオーバーや皮脂の産生を調整します。そのため ビタミンAが不足すると夜盲症などの眼疾患、皮膚がカサカサしたりフケが増える皮膚疾患に罹りやすくなります。またビタミンAは白血球を作るために必要です。白血球はウイルスや細菌から体を守っていますから、ビタミンAが不足すると感染症に罹りやすくなります。

ビタミンB群

ビタミンB「群」というだけあって、Bのグループは種類がいっぱいです。しかもビタミンBと書かれていない場合も多々あります。

チアミン

チアミンはビタミンB1です。
原材料一覧にはチアミンと書かれていることもあるし、丁寧な表記ならチアミン塩酸塩(塩酸チアミン)またはチアミン硝酸塩(硝酸チアミン)と書かれている場合もあります。
塩酸とか硝酸という言葉に不安を感じる方がいるかも知れませんが、これらは中和した状態の「塩(えん)」ですからご心配なく。
チアミンは糖質の代謝、つまり炭水化物からエネルギーを産生するのに重要な役割を担っています。チアミンは体内で作ることができず、食事から摂取する必要があります。体内での貯蔵期間は2週間程度で少量しか貯蔵できないため、食事から摂取しないと急速に欠乏症が進行します。
猫は体内に大量のビタミンを蓄えられないことと、犬の5倍のチアミンを必要とすることから犬よりもずっと多く欠乏症が見られます。
チアミン欠乏症でよく知られているのは脚気です。疲労感、筋力低下、歩行障害、視力低下などの症状があり、放置すると生命に関わります。
ペットフードの原材料では米糠やビール酵母からもチアミンが摂取できます。

リボフラビン

リボフラビンはビタミンB2です。
糖質、タンパク質、脂質の代謝に関わり、中でも脂質からエネルギーを産生する役割を主に担っています。
また赤血球形成、抗体の生産、甲状腺機能の維持にも重要です。
皮膚や粘膜、被毛の健康に深く関わっていて、不足すると皮膚がカサカサしてフケっぽくなったり毛艶が悪くなったりします。
卵や肉類、レバー、ビール酵母などペットフードの原材料に使われる食品にも多く含まれているのですが、光に当たると急速に分解されるためペットフードに添加されています。

ナイアシン

ナイアシンとはビタミンB3です。他のビタミンB群と同じように、糖質、タンパク質、脂質の代謝に不可欠です。
他のビタミンB群やアミノ酸とともにセラミドを合成し、皮膚を保護する働きを持っています。
犬はアミノ酸のトリプトファンからナイアシンを合成できますが、猫は合成がほとんどできないのでキャットフードの場合はナイアシンの必要量が高くなります。
ナイアシンはペットフードの原材料では肉類や穀類に多く含まれており、熱にも強いので添加が必要ない場合も多いです。しかしトウモロコシにはナイアシンが含まれず、アミノ酸のトリプトファンも少ないため、トウモロコシ主体のフードではナイアシンの添加は必須です。

パントテン酸

パントテン酸はビタミンB5です。
ペットフードに添加されるのはビタミンのパントテン酸にカルシウム塩を付加したパントテン酸カルシウムです。カルシウム塩はパントテン酸の吸収を高める働きをします。
パントテン酸カルシウムはパントテン酸とカルシウム塩の化合物ですが、その働きはパントテン酸と同じというわけですね、ややこしいですね😓ちなみにカルシウムとしては機能しません。
他のB群同様に糖質、タンパク質、脂質の代謝をサポートしています。またストレスを和らげる副腎皮質ホルモンの合成に関わっており、抗ストレスビタミンとも呼ばれます。
ペットフードの原材料では肉類、卵、豆類に多く含まれるので不足することはまずありません。


ピリドキシン

ピリドキシンのおなじみの名前はビタミンB6です。
原材料一覧ではピリドキシン塩酸塩(塩酸ピリドキシン)と表記されていることもあります。
ピリドキシンは補酵素(酵素の働きを助ける)としてタンパク質(アミノ酸)の代謝に関わり神経伝達物質の合成を促進します。正常な免疫機能の維持、赤血球のヘモグロビンの合成にも関わるなど身体のあらゆる所で働く、生命維持に不可欠なビタミンです。
ペットフードの原材料では魚、鶏肉、ひよこ豆、大豆、ジャガイモ、ビール酵母に多く含まれています。


ビタミンB12

ここまで挙げてきた他のビタミンB群と同じように、ビタミンB12にはコバラミンという名前があります。しかしペットフードの原材料一覧ではビタミンB12と表記されていることがほとんどです(なぜだろう?)
ビタミンB12はレバーなどの内臓肉、魚介類、卵など動物性食品に多く含まれます。
神経系および血液細胞を健康に保ち、DNAの生成をサポートする重要な働きを持っています。不足すると正常な赤血球を作ることができなくなり貧血を起こします。貧血って鉄分だけが関係しているんじゃないんですねえ。

葉酸

葉酸はビタミンB12とともに赤血球を作る働きを担っています。DNAやRNA、タンパク質の合成を促進し細胞の生産や再生を助けます。
ペットフードの原材料ではレバー、ビール酵母、ほうれん草やブロッコリーなどの緑黄色野菜に多く含まれます。


ビオチン

ビオチンはビタミンHと呼ばれることもありますがビタミンB群に含まれます。糖質、脂質、タンパク質の代謝において補酵素として働きます。ここまでビタミンB群のほとんどが糖質、脂質、タンパク質の代謝に関わると書いてきましたが、その代謝の段階で補助的な役割を果たすのがビオチンです。逆に言えばビオチンなしでは他のビタミンや酵素も仕事ができません。
ペットフードの原材料ではレバーや卵(卵黄)に多く含まれています。卵では生の卵白にはビオチンの吸収を阻害するアビジンというタンパク質が含まれます。ですから生の卵白だけを継続的に与えるとビオチンが欠乏して皮膚や皮毛の健康が損なわれるおそれがあります。でも卵の生の白身だけを毎日犬に与える人なんてそうそういませんよね😆
卵を加熱して与える場合は全く問題がありませんし、生卵を与える場合も全卵であれば黄身に含まれるビオチンの方が白身のアビジンよりもずっと多いので、まず問題はありません。


ビタミンB群について、種類別に書いてきました。
実はね、ビタミンB群には食品から摂取する以外の方法があるんですよ。それは腸内細菌による産生です。腸内に住んでいる微生物のうちビフィズス菌や乳酸菌は主に水溶性の食物繊維をエサにしてビタミンB群を産生しています。
この食物繊維についてはまた別の項目で詳しく書きますが、ペットフードに食物繊維が含まれているのはこういう理由もあります。
ただし猫の腸内細菌はビタミンB群の産生が得意ではないので食事からの摂取が必須です。

ビタミンB群はすべて水溶性ですので、摂取する量が多すぎた場合には尿といっしょに排出されるので過剰症になることはまずありません。


⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹⇹

ビタミンAとBだけでずいぶん長くなってしまったので、ここで一旦切りますね。
引き続きビタミンとミネラルについて書いてまいります。

4 件のコメント:

  1. いつも勉強になる記事をありがとうございます。
    お忙しいところ恐れ入りますが、質問があります。
    パントテン酸カルシウムの項に“ちなみにカルシウムとしては機能しません”とありますが、これはどうしてですか?

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    1. Soyoさん コメントありがとうございます。
      パントテン酸カルシウムという名前から受ける印象だと、パントテン酸がくっついているカルシウムなのかな?と思いますよね。
      けれども実際には、この物質はパントテン酸にカルシウムをちょっとだけくっ付けたものなんです。メインはパントテン酸で、割合にするとパントテン酸92%カルシウム8%程度です。
      カルシウムの量はとても微量で、さらにこのカルシウムの役目はパントテン酸の吸収を強化するためのものなので、パントテン酸カルシウムはカルシウムの摂取源としては機能しないんですね。

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  2. 詳しい解説をありがとうございます。
    酸がミネラルの吸収を促進するのはイメージしやすいですが、その逆というのは不思議ですね。

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    1. そうですよね。私もカルシウムの前に来る○○酸が吸収率を左右すると認識していたので、カルシウムがビタミンの吸収率を高めるというのに驚きました。

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原材料一覧のアンカー役 ビタミン&ミネラル3

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