2023年9月1日金曜日

原材料一覧のアンカー役 ビタミン&ミネラル3

 image by congerdesign from Pixabay


ペットフードの原材料一覧のラスト辺りにバーッと並ぶ難解な名前の物質たち。あれらのほとんどはビタミンとミネラル類です。今回は3回目、ミネラルを取り上げます。

1回目 ビタミン&ミネラル1(ビタミンAとB)

2回目 ビタミン&ミネラル2(ビタミンC、D、E)


ミネラルって何?

そもそもミネラルって何なのでしょうか?

自然界に100種類以上存在する金属元素がミネラルです。そのうちの16種類が、人間や動物が食物から摂取しなくてはならないものです。

ミネラルとは、体を構成する「酸素、炭素、水素、窒素」の主要4元素以外のものの総称です。また「糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラル」の5大栄養素のひとつでもあります。

ミネラルは歯や骨格を作るだけでなく、体内の水分や酸のバランスを保ったり、神経の伝達、筋肉の収縮、酵素の構成成分となるなど、身体中で重要な役割を担っています。ミネラルは命を維持するために絶対に必要な栄養だというわけです。

それぞれのミネラルは、お互いに働きかけ合ってバランスを取りながら代謝を行なっています。特定のミネラルだけが長期的に不足したり、また反対に特定のミネラルだけを長期的に摂り過ぎたりすると、お互いに働きかけ合うバランスが崩れてしまいます。

身体が必要とするミネラルのバランスはライフステージによっても変わります。特に骨格や筋肉がどんどん大きくなる乳幼児期〜成長期のミネラルバランスは非常に重要です。子犬や子猫には専用のフードを与えるのが理想的な理由のひとつです。


ペットフードに含まれるミネラル

哺乳類に必要な必須ミネラルは16種類と考えられていますが、AAFCOがペットフードに含まれていなくてはならない量を定めているミネラルは次の12種類です。

  • カルシウム
  • リン
  • カリウム
  • ナトリウム
  • 塩素
  • マグネシウム
  • マンガン
  • 亜鉛
  • ヨウ素
  • セレン

青い文字のミネラルは常量元素またはマクロミネラルと呼ばれ、体内での含有量も摂取する必要量も多いものです。

赤い文字のミネラルは微量元素またはミクロミネラルと呼ばれ、必要量がごく少量のものです。

ビタミンの項目でも書きましたが、ペットフードに添加されるミネラル類はあらかじめ正しい配合でミックスされたものがペットフードメーカーに納品されます。あらかじめ混合されたものが添加されることで、必要な栄養素がペットフードの粒に均等に行き渡ります。

ではそれぞれのミネラルについて、役割や知っておきたいポイントをあげていきます。


カルシウム

カルシウムの働き
・筋肉の収縮
・血管の収縮と拡張
・ホルモンの分泌
・血液凝固促進
・骨と歯の構造成分

カルシウムと言えば骨や歯というイメージですが、それ以外にも重要な役割を担っています。例えば上に挙げた「筋肉の収縮」、ここには心臓などの内臓の筋肉も含まれますから、血液中のカルシウムが不足すると生命を維持することができません。

つまり血液中のカルシウムは絶対に不足させるわけにはいかないので、食事から摂るカルシウムが不足すると、自分の骨を破壊してでも血中カルシウム量は維持されます。(骨が犠牲になった状態が骨粗しょう症です。骨粗しょう症は犬にも猫にも起こります。)血液検査をしてもカルシウムが不足しているかどうかがわからないのはこのためです。

こんなに重要なミネラルなのですが、ペットフードの原材料一覧にはカルシウムと記載されていないことがあります。食材としての原材料で骨付きの肉や丸ごとの魚を使用している場合などがそれにあたります。

(でもたまにカルシウム源となりそうなものが書かれていないのにカルシウム添加の表示がない場合があります。ドッグフード原材料シリーズで「なぜだ?」と書くことがあるのはこんな場合。そういう場合でも総合栄養食と記載されているので、多分原材料一覧の書き方の詰めが甘いのだと思います。小規模なメーカーでは起こりがちです。

ペットフードの原材料一覧では単純に「カルシウム」ではなく次のように記載されていることもあります。

・炭酸カルシウム
 貝殻や石灰石を粉砕した加工品、または合成炭酸カルシウム。
 安価なのでペットフードではよく見られます。

・卵殻カルシウム
 卵の殻の粉末ですが、これも成分は炭酸カルシウムです。

・乳酸カルシウム
 乳酸菌の発酵によって生じるカルシウム化合物。
 値段が高いのでペットフードではあまり見かけません。

ペットフードの栄養成分と言えばAAFCO(アメリカ飼料検査官協会)が一番に思い出されますが、AAFCOの栄養基準の元になっているのはUnited States National Research Council(略称NRC 米国学術研究会議)の栄養基準です。

NRCによると、犬は1日に体重1kgあたり50mg、猫(体重3〜5kg)は1日に180mgのカルシウムが最低限必要だとされています。
体重10kgの犬なら1日に最低500mgのカルシウムが必要、体重5kgの猫なら最低180mg。日本の成人のカルシウム摂取推奨量は670〜800mgですから、体の大きさに比べて犬や猫がどれだけカルシウムを多く必要とするかがよくわかりますね。
(ちなみにアメリカの成人のカルシウム摂取推奨量は1,000〜1,200mg)

リン

リンの働き
・骨と歯の構成成分
・DNA、RNA、細胞膜のリン脂質に含まれる
・身体が適切に機能するためのエネルギー代謝

リンはカルシウムやマグネシウムと結合して骨や歯を構成しています。骨の強度にはリンとカルシウムの割合が重要で、リン:カルシウムは1:1〜1:2に保つ必要があります。

リンは肉や魚、卵などに多く含まれるので不足することはあまりありません。ペットフードの場合はチキンミールやフィッシュミールに含まれる骨にもリンが多く含まれます。そのため原材料一覧に「リン」という表記を見ることはほぼありません。(たまに骨粉を原料にしたリン酸カルシウムを使っているフードがあるので「ほぼ」と書きました。)

食物から摂ったリンは上記のような役割を果たし、余った分は尿中に排泄されます。リンの排泄や再吸収のために働くのは腎臓ですが、腎臓の機能が低下すると不要なリンを排泄することができなくなります。腎機能が低下した犬や猫のフードが低リン処方になっているのはこのためです。


マグネシウム

マグネシウムのはたらき
・骨と歯の構造成分
・神経の情報伝達
・筋肉の収縮
・体内のエネルギー代謝全般に関わる

マグネシウムは、精製していない穀類、雑穀、豆類、種子類、魚介類、海藻に多く含まれます。ペットフード特有の原材料ではミール類に含まれる骨にも多く含まれるため、原材料一覧にマグネシウムという記載を見ることはあまり多くありません。


カリウム
カリウムのはたらき
・細胞の浸透圧を調整し一定に保つ
・神経の情報伝達
・筋肉の収縮

体内のカリウムはそのほとんどが細胞内に含まれ、細胞が正常に働くために不可欠です。これらの働きはナトリウムとお互いに密接に関連しています。
野菜、果物、肉類、魚、卵など幅広く含まれますが、ペットフードでは塩化カリウムがカリウム補給の目的で配合されます。



ナトリウム

ナトリウムのはたらき
・細胞の浸透圧を調整し一定に保つ
・筋肉の収縮
・神経の情報伝達
・栄養素の吸収や輸送

ナトリウムは食塩の主成分のひとつです。食塩は99%が塩化ナトリウム(塩素とナトリウムの化合物)です。
ペットフードでは塩化ナトリウムまたは塩として配合されることが多いです。
「犬や猫に塩分はNG」というのは過剰な塩分を日常的に与えるのはダメという意味で、塩を全く与えないとナトリウム不足で命に関わることもあります。



塩素

塩素のはたらき
・体液の浸透圧の調節
・血液や腸内環境のph調整
・胃酸の構成成分

食品から摂取できる量はごくわずかなので、塩化ナトリウムなど塩素の化合物から摂取します。ここにも犬や猫に塩が必要な理由がありますね。




鉄のはたらき
・ヘモグロビン(血液の酸素運搬役)ミオグロビン(筋肉の酸素運搬役)の構成成分
・酵素の働きをサポートする補酵素

ペットフードに使用される原材料で鉄を多く含むのは、牛肉、馬肉、鹿肉などの赤身肉、レバーをはじめとする内臓肉、植物性ではほうれん草やネトル(イラクサ)などがあります。
食品以外でサプリメントとしてペットフードに配合される鉄は単に鉄と表記されていることも多いですが、硫酸鉄、ピロリン酸鉄という名前で表記されている場合もあります。また吸収性を高めるためにアミノ酸と結合させたアミノ酸キレート鉄が使用されていることもあります。


銅のはたらき
・酵素の構成成分
・酵素の働きをサポートする補酵素
・被毛の色素であるメラニンの合成

ペットフードの原材料では肉類や豆類に多く含まれ不足することはあまりないのですが、多量の鉄や亜鉛といっしょに摂取すると銅の利用率が低くなります。
ペットフードでは単に銅と表記されていることも多いですが、硫酸銅、銅アミノ酸キレートといった名で表記されていることもあります。


マンガン
マンガンのはたらき
・酵素の構成成分
・細胞のミトコンドリアが正常に機能するために必要

体内に存在する量はごくわずかですが、上記のように重要な役割を持っています。
ペットフードの原材料では穀物に多く含まれるので、サプリメントとして添加されていないフードも多いです。添加されている場合、酸化亜鉛マンガン、硫酸マンガンといった名で表記されていることもあります。


亜鉛
亜鉛のはたらき
・酵素の構成成分
免疫機構、成長、生殖などの生理機能に関わる
・コラーゲンやケラチンの合成に必要なので傷の治癒や換毛期には欠かせない

皮膚、粘膜、被毛の健康に重要な役割を果たしています。
ペットフードの原材料では全粒穀物、肉類、内臓肉に多く含まれます。亜鉛は小腸で鉄と銅の吸収を阻害するため、ペットフードではそれを見越して鉄と銅を最小必要量よりも多く添加している場合も多い。
ペットフードへの添加は、硫酸亜鉛、酸化亜鉛が使用されていることもあります。また吸収率を高めるためにアミノ酸と結合させたアミノ酸キレート亜鉛が使用されることもあります。

ヨウ素
要素のはたらき
・甲状腺ホルモンの構成成分

ペットフードの原材料では昆布、海藻、魚類、海塩に含まれます。体内での必要量はごくわずかです。


セレン

セレンのはたらき
・全ての体細胞に存在する抗酸化物質であるグルタチオンペルオキシターゼの必須成分

体内での必要量はごくわずかで、ペットフードの原材料では魚、レバーなどが供給源になります。
上記のようにセレンは体細胞に存在する抗酸化物質の必須成分で、別の代表的な抗酸化物質であるビタミンEと協調して働きます。細胞を酸化(損傷)させる活性酸素から細胞膜を保護し酸化を抑制するために重要な役割を果たします。
ペットフードへの添加では、吸収率の高いセレン酵母として配合されていることもあります。


以上がペットフードに含まれていなくてはならないミネラル類についての簡単な説明です。ドッグフード原材料シリーズでは書ききれない部分の補足だと考えてください。


【参考URL】

https://www.petfoodinstitute.org/blog/a-to-z-of-pet-food-minerals/

https://petcurean.com/en-us/vitamin-mineral-supplementation-in-pet-food

https://www.hillspet.com/pet-care/nutrition-feeding/minerals?lightboxfired=true#





原材料一覧のアンカー役 ビタミン&ミネラル3

 image by congerdesign from Pixabay ペットフードの原材料一覧のラスト辺りにバーッと並ぶ難解な名前の物質たち。あれらのほとんどはビタミンとミネラル類です。今回は3回目、ミネラルを取り上げます。 1回目  ビタミン&ミネラル1(ビタミンAとB) ...