2022年10月19日水曜日

ペットフードに使われるコーンは本当に「悪者」なの?

Cornell FrühaufによるPixabayからの画像

ペットフードの原材料としてのコーン(とうもろこし)は「粗悪な原料」と呼ばれがちでフードにこだわる飼い主さんの間では「コーンを使ったフードなんてあり得ない!」というのが大体一致した見解のように思います。

またペットフードに使われているコーンの形態はとうもろこしとストレートに書いてある場合もあれば、とうもろこし粉、コーングルテンと色んな名前が挙げられていて、いったいどう違うの?と思いますよね。

ここではひとつひとつ解説していきます。コーンに対する見方がちょっと変わるかもしれません。


コーンは「カサ増し」原料じゃないよ

まず最初にコーン(とうもろこし)についてお話しします。
とうもろこし美味しいですよね。それがいざペットフードの話となると途端に悪者にされる気の毒な存在でもあります。

コーンの粒の部分の栄養価のうち約3分の2は炭水化物ですが、100g中の値で言えばタンパク質8〜9gや脂質5gが含まれています。さらに食物繊維も多く含まれているので食後の血糖値の上昇が緩やかな低GIの食品です。
三大栄養素の他にはβカロチン、ビタミンB群、ビタミンEも多く含んでいます。
さらに、とうもろこしのあの黄色い色はゼアキサンチンというフィトケミカルで眼精疲労や眼病予防をサポートします。コーンすごくない?

私がニコと暮らし始めたばかりの頃、ドッグフードのことを説明したネット上のあれこれで「ペットフードの原材料に”とうもろこし”とか”コーン”と書かれている場合、外側の皮も芯もヒゲも全部使われている。そうすることでフードのカサが増えて安価に製造できるから」というものを読み「わ〜悪質だなあ、コーンの入ったフードは避けよう」と思ったことを覚えています。ちなみにこれは大ウソです。

コーンという穀物は、実の部分はもちろんのこと外皮もヒゲも芯もすべて様々な用途に使われています。コーンの芯は乾燥加工して燃料、石油掘削用吸着剤、乾燥剤、機械類の研磨剤などに利用されています。外皮は紙や段ボールに、ヒゲはコーンシルクとしてお茶や漢方薬にと、ペットフードのカサ増しにだけなんてもったいない使い方はされません。


コーンを食べるとアレルギーになりやすい?

ペットフードに使用されるコーンは私たちが食べる甘味の強い種類ではなく、糖分の少ない飼料用がほとんどです。原材料一覧に「コーン/とうもろこし」または「とうもろこし粉」と書いてある場合は乾燥したコーンの粒を挽いたものです。

私たちがコーンを食べると歯間に繊維が残りがちですが、あれは粒の外側の皮=果皮(かひ)です。炭水化物やタンパク質は果皮の中身の部分に含まれますが、果皮はセルロースという不溶性食物繊維で人も犬も消化できません。コーンは消化が良くないという印象が強いのはこの果皮のせいですね。上に書いたように挽いてあると中身(胚乳と胚芽)の部分が果皮に包まれた状態ではなくなるので消化しやすくなります。

粒の中身の胚乳というのがコーン粒のメインの部分、胚芽は粒の付け根の部分です。胚芽は搾ってコーン油を採る部分です。この胚芽に含まれる脂質はオメガ6脂肪酸のひとつリノール酸を豊富に含みます。(オメガ6脂肪酸は体内で合成できないので食物から摂取することが不可欠の必須脂肪酸です。必須脂肪酸はもうひとつオメガ3脂肪酸というのがあります。)

リノール酸はコレステロールや中性脂肪を低下させる、皮膚の健康を保つ、免疫機能を正常に保つなど重要な役割を持っています。しかしもうひとつの必須脂肪酸であるオメガ3脂肪酸との摂取バランスが崩れると、これら重要な役割に支障が起きます。

ペットフードの脂肪酸摂取バランスが崩れるシナリオで最も考えられるのはリノール酸の過剰摂取です。通常、ペットフードにはオメガ6脂肪酸の摂取源として鶏脂肪、ひまわり油、キャノーラ油(いずれのオメガ6脂肪酸もリノール酸がメイン)などが加えられています。胚芽部分を含むコーンが使われていると、これらのリノール酸を含む脂質に上乗せしてリノール酸を摂取することになります。

リノール酸の働きのひとつに「免疫機能を正常に保つ」というものを挙げましたが、ここには体内で炎症反応を起こすというものが含まれます。炎症を起こすことで体に入った細菌やウイルスを攻撃排除します。
一方、オメガ3脂肪酸は炎症反応が過剰にならないよう制御する役割があるのですが、リノール酸の摂取量が多すぎたりオメガ3脂肪酸が足りないと制御が利かず炎症反応が暴走することがあります。具体的には皮膚が赤く痒くなったり、おなかが緩くなったりといったことです。

コーンを使ったフードを食べ続けているうちに足や耳に炎症が起きたという場合、リノール酸の過剰摂取も考えられる理由です。カイカイや下痢が起きたからといって全部がアレルギーというわけではないのです。

よく「コーンはアレルギーの原因になりやすいので避けましょう」という言葉を見かけますが、犬猫のアレルギーのうち穀物が原因であるものは約1%だそうです。特定の食物を摂っていると将来アレルギーになるわけではないし、特定の食物を避けたからアレルギーにならないわけでもありません。(既にアレルギーがあって特定の食物を避けるのは話が別)

コーンでアレルギーが起きることがないとは言いませんが、その確率は低いものです。それよりもコーンの胚芽部分が原材料に含まれていることでリノール酸の過剰摂取が起きて炎症反応が強く出過ぎたということが多いのではないかと思います。コーンを多く含むフードで何らかの健康問題が起きるなら避けた方が良いという結論は同じでも、全てをアレルギーで片付けるのではなく、食べ物の性質を知っておくことで落ち着いた対応ができます。


コーングルテンって何?

原材料一覧に「とうもろこし」とか「コーン」と書かれていれば分かりやすいのですが、よく見かけるコーン関連の原材料で「コーングルテン」というものがありますね。(コーングルテンミールとかコーングルテンフィードと呼ばれることもあります。)
コーン自体に粗悪のイメージがつきまとう上にグルテンという「犬には避けるべし!」と言われがちな名前がプラスされて、とんでもない極悪原材料だと思われているフシがあります。

コーングルテンとはコーンのタンパク質です。
厳密に定義すると、グルテンとは小麦に含まれるタンパク質のうちグルテニンとグリアジンが水と結びついてできる物質です。小麦粉に水を加えて練るとモチモチするのはグルテンのせいです。
しかしもう少し大雑把に「穀物の粉からでんぷんを取り除いた後の粘り気のある残留物」をグルテンと呼ぶことがあります。コーンの場合はコーンスターチを精製した際の副産物がコーングルテンです。
しかしコーングルテンは小麦のグルテンとは全く違うものです。ややこしい呼び方しないで欲しいですね😖

コーングルテンがどのように作られるかを説明します。
まずコーンの粒を亜硫酸水に浸して柔らかくした上でそのまま浸漬液の中で破砕し、遠心分離機にかけて果皮、胚芽を取り除きます。果皮は乾燥粉末にして食物繊維として食品添加物などになります。胚芽はコーン油の原料になります。
亜硫酸水の浸漬液の中ではでんぷんが沈澱しています。これを取り出して乾燥したものがコーンスターチ、上澄液に含まれていたものを分離したものがコーングルテンです。

↑上記の工程で「亜硫酸水ってなに!?なんか怖い!」と思われたかもしれないですね。
亜硫酸水は亜硫酸の水溶液で、亜硫酸はワインの酸化防止剤やドライフルーツの漂白剤としても使用されます。コーンスターチやコーングルテンの加工工程では希釈した状態で使われ、最終的には水分は取り除かれているので製品に含まれるのは少量です。言うまでもなく安全基準は満たしています。

話をコーングルテンに戻すと、このように複雑な工程を経て消化しにくい部分は取り除いて作られていますからコーングルテンは犬や猫にとっても消化の良いタンパク質です。胚芽部分も含まれませんから、コーングルテンではリノール酸の過剰摂取にはなりません。
よく「コーングルテンは消化が悪くアレルギーを起こしやすい」という誤解を目にしますが、そんなことはありません。

しかしコーングルテンが犬や猫にとって理想的ではない理由があります。それはタンパク質を構成するアミノ酸のうち必須アミノ酸のリジンとトリプトファンが少ないこと。
犬が食事から摂取する必要のある必須アミノ酸は10種類、猫は11種類あります。
それら10または11種類のアミノ酸のそれぞれの理想量が10だと仮定して、リジンが6、トリプトファンが3で、他のアミノ酸は10含まれている食品を摂った場合10含まれている他のアミノ酸たちも一番低いトリプトファンと同じ3だけしか活用されないんですよ。
これをアミノ酸の桶理論と言います。
詳しくはこちらで → アミノ酸の桶理論〜SMILES@LA

必須アミノ酸のうち2つが少ないだけでなく、他のアミノ酸も活用されず単なるエネルギー源になってしまうのがコーングルテンの最大の欠点です。とは言え、ほとんどのフードはこれを補うためにチキンミールが使われたり、アミノ酸そのものが添加されたりしているので、「コーングルテンを使ってる!アミノ酸不足!」というわけではありません。


それでもやっぱりコーンには注意が必要な理由

コーンが世間で言われているほど粗悪なわけではないこと(特別に優良でもないけれど)を書いてきましたが、それでもやっぱりコーンには注意しておきたいことがあります。ついでに言うとコーンと双璧をなすフードの二大悪役である小麦も。

それはコーンと小麦は最も遺伝子操作されている穀物であり、その大部分が除草剤や農薬への耐性の高さを作り出すためであること。つまり除草剤や農薬が多く使われている可能性が高いんですね。これはペットフードの原材料一覧を見てもわからないことですから知っておいた方が良いですね。

ミールや副産物もそうなのですが、間違った定義や説明で不要な不安を感じたり、特定の材料をを怖がって選択範囲を狭めてしまうことがないよう、お手伝いできればいいなと思っています。



《参考サイト》

https://www.epa.gov/sites/default/files/2014-12/documents/impacts_of_ethanol_policy_on_corn_prices.pdf

https://www.sciencedirect.com/topics/engineering/corn-cob

https://nutritionrvn.com/2021/02/06/food-allergies-hypoallergenic-diets/

https://www.sciencedirect.com/topics/agricultural-and-biological-sciences/corn-gluten

https://sitn.hms.harvard.edu/flash/2015/gmos-and-pesticides/

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